「ウイルスとの距離」の問題:顧客にとって、リアルタイムでのコロナウイルスの追跡はベストなことだろうか?

2020年3月20日
C Space
Regional CEO EMEA & APAC
Felix Koch

我々の調査では、米国市民の最も差し迫った関心事は「ウイルスとの距離」だということがわかりました。我々の調査サンプルの50%の人は、より多くの情報を必要だと感じていると述べ、半数以上がウイルスの感染拡大に関心があるとしています。米国の回答者はコロナウイルスをどう避けたらよいのかについて知りたいと思っています。しかし、リアルタイムでのGPS追跡は、すべての人にとって最も重要な関心事なのでしょうか。

コロナウイルスの発生に関する意識は高いものの、3月8日に集計されたC Spaceが行った調査データの結果では、十分な情報を得ていると感じている米国の消費者は36.5%にとどまっています。
人々はどのような情報が足りないと感じているのでしょうか。

回答の傾向としては、回答者の10%は症状についての詳細情報を、6%は診断についての詳細情報を知りたいと思っており、23%は治療についての情報を探していることが分かりました。

さらに重要なこととして、我々のデータが明らかにしたのは、米国市民の最も差し迫った関心事は「ウイルスとの距離」だということです。我々のリサーチサンプルの50%の人はより多くの情報を必要だと感じていると述べ、半数以上がウイルスの感染拡大に感心があるとしています。米国の回答者はコロナウイルスをどう避けたらよいのかについて知りたいと思っています。

これは理に適ったことで、もっともな仮説に基づいています。発生源から遠ければ遠いほど、ウイルスに感染する可能性は低くなります。もし、ウェストチェスター郡(ニューヨーク州)やキング郡(ワシントン州)、または、サンタクララ(カリフォルニア州)に住んでいたら、ウィスコンシン州やミズーリ州、またはバーモント州に住んでいるよりもより現実的で差し迫ったリスクがあります。

“誰がコロナウイルスに感染しているのかをわかるよい方法があったらよいのですが” と24件の感染症例があるマサチューセッツ州在住の27歳男性Danは言います。

他の回答者としては、
104件の報告症例のあるカリフォルニア州在住の44歳女性は、 “リアルタイムでどの地域を避けたらよいのかが分かれば良いのに。” と述べています。
イリノイ州の33歳女性Julietteは “感染者の正しい数字と彼らがいるエリアを確実に知りたい“と述べています。
こうしたリアルタイム情報を市場は求めているのです。
中でも、政府とテクノロジー企業は、クレジットカードの使用履歴と監視カメラを使いGPSデータを文書化して記録することができます。しかしながら、それができる機能を備えていて、提供できるとしても、それが必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。
人々が求めているもの、望むもの、そして何を得て、それが何を意味するのか(個人にとっても社会にとっても)は、同じスペクトラム の中で異なった結果をもたらすことがよくあります。
私たちにそれが“できる”ということは、私たちがそれをする理由になるのでしょうか。
2015年に韓国政府はMERS-Covが発生した際に、患者がどこにいるのかを含めた情報公開を控えたことで批判にさらされました。これを機に政府の健康調査官に権限を与えるために法改正がなされました。そして、匿名の患者情報がより自由に扱えるようになりました。
その当時から、2020年3月に時を進めると、つい最近まで韓国はコロナウイルス発生による感染者の記録が世界で2番目に高い国でした(現在3月9日時点では9,172件と、中国とイタリアに次ぐ3番目となっています)。

韓国疾病管理本部 の職員はBBCに、患者の動きを追跡するためのさまざまな技術を駆使していると語りました。まず、患者にインタビューをし、情報を集め、それをデータに落とします。ギャップを埋めるために、詳細を確認し、韓国政府はGPSデータ、監視カメラ映像、そしてクレジットカード利用履歴を使い、感染ルートを再構築しています。非常に正確な情報です。
韓国では、誰でも政府の公式ウェブサイトを訪れ、性別、年代別に患者の症例数を見ることができます。加えて、患者がどこにいたのか、店舗名やレストラン名まで正確な場所を確認することができるのです。
この情報は単にオンラインで入手できるだけではありません。これらの情報は透明性をさらに高めるため、緊急SMSメッセージで市民に配信されます。韓国ではリアルタイムでの感染数の更新が可能で、ウイルスが滞留していた感染現場となった場所を正確に分析できるのです(患者の氏名と住所を除きます)。

“60代女性が陽性反応”という典型的なメッセージに加え、“リンクをクリックすると、彼女が入院する前に行った場所を確認できます。”と表示されています。クリックすると、読者は各診断についての情報がリスト化されている官公庁のウェブサイトに移動します。

発行された情報は公的にアクセス可能で、アプリ開発者は、時間をかけずに非公式のモバイルサービスをローンチすることができます。

Corona 100m-これは、感染者と診断された患者が訪れたどの場所でも、その100メートル以内に入ったらプッシュ通知を受け取ることができるアンドロイドアプリです。このアプリは、2020年2月11日にリリースされて以来、100万回以上ダウンロードされており、ある時点で、20,000以上の新規ユーザーが、1時間ごとにアプリをダウンロードしていました。

Corona100mでは、場所だけでなく、患者が陽性だと確認された日に加え、その患者の国籍、性別、年齢を見ることができます。また、患者とのウイルスとの距離をリアルタイムで明らかにします。

米国の消費者が求めていると思われるデータに、韓国では疑いの余地なく一般の人たちがアクセスできます。しかし、こうした情報へのアクセスは良いものなのでしょうか。それは、助けになるのでしょうか。

韓国からの回答はそうではないことを示唆しています。
公衆衛生サービスを目的として配信されるテキストメッセージは、過剰なものとみなされています。これらのメッセージは社会的不名誉を煽るものであると広く報道され、コロナウイルス陽性と診断されたかどうかにかかわらず、データの公表は人々の外出を思いとどまらせています。

透明性の高いデータの利用を通して生まれるこうした不名誉なバッシングなどに対する恐れはコロナ ウイルスそのものに対する恐れを超えています。
ソウル大学公衆衛生大学院のチームは1,000人の韓国人に、(a) 潜在的ウイルスの保有、(b)感染することによって起こるであろう批判とさらなる被害、(c) 無症状であるにもかかわらず既に感染している可能性について、最も恐れることは何かを調査しました。

その結果、回答者が、感染することによって起こるであろう批判と、さらなる被害のリスク がウイルスを保有することよりも恐れられていることを明らかにしました。
その理由は、たとえ自分が患者に特定されていなかったとしても、オンライン上での批判と嘲笑にさらされる可能性があるからです。

ある43歳の男性患者は“セクシャルハラスメント教室”に参加していたと記録されていました。そこで彼は講師からウイルスに感染したのです。他の患者は婚外関係を持ったことで非難され、また、オンライン上で見ていた人たちは、これほど多くの韓国人が時間制のラブホテルに行くことを知らなったとコメントしています。

そして、このデータの透明性は個人だけへの影響にとどまりません。
患者が来店していたと記載された事業者もまた顧客を失いつつあります。殺菌消毒が行われた後でもです。影響を受けた建物のレストラン経営者はウイルスが彼らを完全に廃業に追い込むのではないかと心配しています。
あるソウルのレストラン経営者が The Guardianにこう語りました。“自分の健康だけを守っていれば良いと思っていましたが、今はコロナウイルスよりももっと怖いものがあると思っています。”

米国の私たちは何を予測すればよいのでしょうか
米国の個人保護法は韓国のものとは明らかに違います。(忘れてはならないのは、韓国は2015年に消費者からの直接のフィードバックを受けて法改正を行ったということです)韓国で行われていることのすべてが米国で可能なわけではありません。
しかしながら、企業は対応が必要です…。
先週、CNBCはAppleがCOVID-19発生に関するアプリを徹底的に取り締まると報道しました。
Appleのプラットフォーム上のアプリの開発者に、“現在の医療情報に関連する情報を提供するアプリは、認定された団体を通して申請されたものでなければならない”と説明したとのことです。
WHOのような公式情報源からの情報の転用される場合、Appleのプラットフォーム上のアプリは公式サービスプロバイダーと認定機関を通してのみ公開されます。
“COVID-19” に関するGoogleアプリのサーチを北米で行っても結果は出てきません。
市場と消費者の欲求や需要があるにもかかわらず、その通りに全ての情報開示を行うことが良いことではないと思います。例え消費者が欲しい、必要だと言ったとしても、そのまま対応することが必ずしも、要求を満たすことに繋がらないケースが多々あります。また、要求がどのようなもので、その要求に応えるとどのような影響をもたらすのかが意味することは、我々の誰もが想像するよりもはるか遠く、広範囲におよぶ可能性があるのではないでしょうか。

この記事内の名前と身元情報は、回答者の匿名性を守るために仮のものに変更しています。

Translated and edited from “The Proximity Problem: Is real time tracking of the coronavirus the best thing for customers?” in C space.com, Authored by Felix Koch

https://cspace.com/the-proximity-problem/