なぜ今、人は美容に投資するのか 

Voice of Japan 03

3行でまとめると:

  1. おうち時間が増えたことで、フェイシャルスキンケアにじっくり時間をかけて、自分の肌と向き合うようになってきている 
  2. 普段使いのスキンケアアイテムには大きな投資はせず、代わりに美容家電やエステなどのプレミアムなものにお金を投じている 
  3. この自己投資は、おうち時間の増えた今だからこそできる「冒険心」と、コロナ終息後を見据えた「危機感」から生まれている

イントロダクション

コロナ禍での生活が長期化し、消費の自粛ムード・節約傾向が続く中、「プチ贅沢」という言葉を更によく耳にするようになりました。ちょっとした贅沢をしたり、少し奮発をすれば手を伸ばせる高級品を買い求めたりすることです。日本総研のレポートによると、全体で見るとプチ贅沢が節約志向を上回り、分野によっては消費を下支えする効果があったと結論付けています(※注1)。この動きは、美容消費においても例外ではありません。美容におけるプチ贅沢やプレミアム志向と呼ばれる消費行動は、どういった生活者の意識から生まれるのでしょうか?  
インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する暮らしの状況に合わせて人々の内面はどのように変化しているのか、理解を深めています。今回はRIPPLEコミュニティのメンバーに聞いた「コロナ禍での美容意識の変化」について、生活者の心理に迫ります。  

男女ともに保湿系スキンケアに注力。ただそこにプレミアム志向はない

コミュニティのメンバーに「コロナ以降に肌・髪・体の“お手入れ”として取り入れたモノ」について聞いてみたところ、一番多く挙がった声はフェイシャルスキンケアで、特に肌の保湿を重視する商品が挙がりました。その理由は、マスク着用による肌の乾燥やニキビなどの肌トラブルで、加えて、外出が減り、化粧をしなくなったことで以前よりも自分の肌と向き合うようになった、という声も多く挙がっていました。また保湿系スキンケアの声は、女性のみならず、男性でも多く見受けられました。

肌ケアには疎く、今までそういったものには 縁が無かったのですが入浴後には 保湿ジェルを塗って肌対策を するようになりました”(男性30代)

人々の意識が、スキンケアに向いたことについては、これを読んでいるほとんどの人が納得できるのではないかと思います。メンバーの声を聞いていても、保湿重視のスキンケア商品の消費量は増えている様子がうかがえました。一方、例えば100%自然由来成分から生まれたオーガニックスキンケア商品といった“プレミアム“な保湿系スキンケアの消費量については、どうでしょうか。RIPPLEでは、普段使う保湿クリームや化粧水をより高価なものに変えた、という声は実はあまり多く見受けられませんでした。反対に、こまめに保湿するのみで、スキンケア商品自体は変えていない人や、肌のお手入れは特に変わっていない、と答える人の方が多く存在していました。 

お化粧なども随分簡略化でスキンケアもどちらかというと肌荒れしない為に 敏感肌用のシンプルなものをつけるくらいにしています“(女性50代)

ベースメイクを薄めにするようになったので、素肌の美しさがより大切に感じるようになりました。スキンケアのアイテムは変わっていませんが、時間をかけてゆっくりケアするようにしています“(女性50代)

自分へのご褒美、ではなく、“危機感”から生まれる自己投資

保湿重視のスキンケアに対して生活者の意識が“プレミアム志向”になっていないとすると、どんなものに対して人々はプチ贅沢をしているのでしょうか。メンバーの声をよく聞いてみると、美容家電の美顔器を買ったり、エステに通い始めたり、中にはプチ整形をした人など、コロナ禍になって今まで以上にお金をかけて美容ケアをしている人もいました。中でも美容家電は、「巣ごもり」需要が追い風となり、販売は好調に推移しているようです。美顔器など美容機器を扱うヤーマンは、2021年4月期連結業績において、売上・利益ともに過去最高を記録しました(※注2)。ご存知の人も多いと思いますが、ヤーマンの取り扱う美顔器や美容機器は数千円で買えるような商品ではありません。“プレミアム志向”に変化しているのは、保湿重視のスキンケアではなく、こうした少し高価な美容家電や美容サービスのカテゴリーのようです。ただ、ここで改めて疑問に思うのは、人と会わなくなり、家で過ごすことが多くなったコロナ禍の今、なぜ高いお金を投じて「美」を追求している人が増えているのか、という点です。

 

美容院に行く回数が減ったからシャンプー、トリートメントも高め…。マスクで目元の印象が目立つようになったので思い切ってプチ整形までしてみました“(女性20代)

美顔器を購入しました。すきま時間にこまめに スキンケアをしています。時間に余裕ができた分、今までおろそかにしていたことを今かんばっている感じです”(女性30代)

メンバーの声の中には、顔のたるみが気になってきた、シミができた気がする、老けてきた気がする、というコロナ前には見られなかった、過剰ともいえる“危機感”や“焦り”が多く聞かれました。これらの感情は、「頑張った自分へのご褒美」というよりも、「劣化していく自分を何とかストップさせたい」という、どこか切羽詰まった感情に近いような気がしてなりません。家の外では、マスクによって“見られている”という緊張感が低下、一方で家では鏡を見たり、オンラインミーティングで自分の顔を見る頻度が増えたことで、自分の顔への執着心が強まったことも要因かもしれません。長引くマスク生活や化粧頻度の低下により、スキンケアを見直す機会を得たことで生活者の美意識が研ぎ澄まされ、以前は気にも留めなかった肌の微妙な変化に敏感になり、それがいつしか、危機感や焦りに変わり、結果、美容に今まで以上にお金を投じるよう、人々を急き立てているのではないでしょうか。 

マスクで人に顔を見られることが減ったのでたるみや表情筋が弱って老けたような、、笑 家で使える美顔器を購入しようと思い探しているところです“(女性30代)

コロナでマスクが手放せない生活になってから、メイクも薄化粧で済んでしまいおしゃれをする気持ちが減っている自分を目の当たりにして「こりゃいかん!」と自分に喝を入れるようにご褒美感覚にフェイシャルエステ、毛穴洗浄エステに月に1度行くようになりました“(女性30代)

“プチ贅沢”ならぬ“プチ冒険”が自己投資を後押し 

美顔器やエステ、プチ整形など、普段使いのアイテムではないものが、危機感や焦りによってプレミアム志向に変わってきている、とお話ししましたが、もう一つ、このプレミアムな自己投資を後押ししているものがあると考えられます。それが「冒険心」です。人と会う頻度が減り、距離が生まれたコロナ禍の今だからこそ、自分の顔で色々試してみたい、という冒険心や、このコロナ禍でなかなか味わえないこっそりとした高揚感・変身欲のようなものが醸成されているのではないでしょうか。これはいわば、「プチ贅沢」ならぬ「プチ冒険」とも捉えられるのかもしれません。 

昔鼻ピアスをしていて、もう年も年だしとずっとしてなかったのですが、マスクがあるしちら見え程度でいいんじゃないかなと思って復活しました“(女性40代)

毎日少しずつ眉毛の色みや角度を変えたりしてマスクをして自分に似合う眉毛の描き方を色々試しています“(女性30代)

今、人々が求めるブランドとは? 

他の一般消費財で見られるような、普段だったら手を出さない少し高級なお取り寄せグルメや、少し奮発しないと買えない熟成ワインなどのプチ贅沢は、「自分を幸せにするためのご褒美」だとするならば、美容におけるプチ贅沢は、来たるコロナ終息後に備えるための「自分を不幸にしないための自己投資」と解釈できるのではないでしょうか。 
今、マスクのない日常を誰もが待ち焦がれている中で、マスクのない生活に戻ること=自分をさらけ出さなければならない、という、ある種の「恐怖心」を抱いている生活者も少なくないのかもしれません。この「恐怖心」をいかにして取り払い、美に対して自己投資をしなければならないという「危機感」を和らげ、そして人々の美容の「冒険心」をくすぐるブランドが今、求められているのではないでしょうか。この生活者の心の声に耳を傾け、期待に応えるブランドが今後、どのくらい現れるのか、今から楽しみにしながら注視していきたいと思います。 

参考文献 
注1) https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/12523.pdf

注2) https://www.ya-man.co.jp/wp/wp-content/uploads/report_202104_full.pdf 

伊藤 章史 
Interbrand Japanシニアコンサルタント

マーケティングリサーチ会社において日用消費材のグローバル調査業務に従事した後、2014年よりインターブランドに参画。ブランド価値評価を中心に、自動車、エレクトロニクス、社会インフラ、金融、製薬、食品、教育、航空など幅広い業界で、クライアントのブランドの成長・価値を高める支援を行なっている。また米国留学の経験から英語を活かし、多くのグローバルプロジェクトにも携わっている。